ひきこもりろん

広告ライターからエンジニアに転職し、現在はYouTuberデビューを目論んでいる「ひきこもり志願者」が日々の妄想を書き散らかすブログ。

【84日目】悪人とWaltzの日

ここのところ、夜な夜な人助けをする機会が多くなった。音信不通になった人物の捜索や、片思いの相手に向けたラブレターの代筆、格安SIMのAPN設定代行など、依頼の内容は多岐にわたる。副業で「何でも屋」を始めるべきなのだろうか。

少し前の作品になるが、大須賀めぐみ先生の『Waltz』という漫画に、大藪という男が登場していた。もとは『首折り男の周辺』という伊坂幸太郎さんの短編小説のキャラクターなのだが、素手で人の首をちぎれる程の怪力を持った殺し屋である。作中では「首折り男」と恐れられているのだが、その生き様は実に魅力的だ。

例えば、駅の自動券売機で老人夫婦が困っていたときのこと。機械の操作方法が分からない夫婦は、なかなか切符を買うことができず、気付けば後ろに行列ができていた。

皆が「早く買えよ」と苛立つ中で、ちょうど老夫婦の真後ろに並んでいた大藪は、小さな声でこう囁くのだ。

「時間がかかるようなら怒るふりをしてやるよ」

その言葉を伝えた直後、大藪は大声で老夫婦を叱咤した。「おい、じじい、のろのろするなよ!」と。

傍から見ると老人相手に非情とも思える行動だが、彼は行列に並ぶ他の人間たちの怒りをおさめるために、自ら率先して「怒るふり」をしたのだ。1人が文句をつければ、周りの人間は文句を言いづらくなる。

もちろん、そんな回りくどいことをしなくても切符をかわりに買ってあげれば済むことだが、それは殺し屋としてのプライドが許さなかったらしい。「本当にいい人」だと思われたくないのだ。

その姿を見て、私は素直に格好良いと思ってしまった。漫画や小説の登場人物に憧れると言うと馬鹿にされるかも知れないが、こんなに気持ちの良い人間が街中に増えれば、きっと世界はもっと楽しく魅力的になるだろう。

そんなわけで、私は今日も「首折り男」の大藪さんを見習って人助けに精を出している。都内でお困りのことがありましたらお気軽にご相談ください。

 

※追記1

この数日で最も成果を残したのは、音信不通になった人物の捜索だった。2日間で出身地と実家の連絡先まで探し出し、安否を確認するに至った。ネットの情報量は恐ろしい。

 

※追記2

大藪さんは人助けをすることで殺し屋という非情な職業とのバランスを取っているらしい。私はここのところ情緒不安定だったので、夜に人助けをすることでガス抜きをしている。単なる暇つぶしとも言う。