ひきこもりろん

広告ライターからエンジニアに転職し、現在はYouTuberデビューを目論んでいる「ひきこもり志願者」が日々の妄想を書き散らかすブログ。

【302日目】クリーニングとギャップ萌えの日

2週間ほど前、しばらく着ていなかったワイシャツをまとめてクリーニングに出した。本当は近所のコインランドリーを使ってみたかったのだが、染み抜きする必要もあったので仕方なくクリーニング屋へと足を運ぶ。

出迎えてくれたのはスキンヘッドの厳つい男性で、制服のエプロンが悪魔的に似合っていなかった。『シュタインズ・ゲート』に出てくるミスターブラウンのような風貌である。

彼は私からワイシャツを受け取ると、これまた渋い表情で染みを確認し始めた。私は何故かとても緊張した。「どうしてこんなに汚れるまで放って置きやがったんだ!」と大声で怒鳴られたら、恐怖のあまりに卒倒してしまうかも知れない。可愛らしい小鹿の看板に惹かれて入店した自分を恨めしく思った。

幸い彼に怒鳴られることは無かったが、会計の際に「全部片付いたら連絡する」と言われた時は、何かとんでもないことを依頼した気分になった。繰り返すが私が頼んだのはクリーニングであり、どこかの組織を潰して欲しいとか、どこかの誰かを消して欲しいとか、物騒な話題は一切出していない。消すのは染みだけで十分なのである。

それから半月ほど経過したが、彼から連絡が来る気配は一向に無かった。もしかすると私が電話の着信に気付かなかった恐れもあるので、仕方なく再び店舗まで足を運んだ。出迎えてくれたのは当然、スキンヘッドの彼である。

私は恐る恐る、「2週間前にクリーニングを依頼したのですが」と伝えた。すると彼は店の奥へと消えていき、何かを探し回る音だけが響いた。戻ってきた彼の手に握られていたのは人間の生首……ではなく私のワイシャツを詰めた紙袋だった。どうやら無事に終わっていたが、連絡するのを失念していたらしい。

私は手早く会計を済ませて店を出たが、何だか妙に料金が安いような気がした。看板に書かれている染み抜き料金と比較しても圧倒的に安い。

帰宅して中身を確認してみると、中には新品のように真っ白なワイシャツが丁寧に詰め込まれていた。しかし、そのうちの数着には襟元に紙が挟み込まれている。何だろうと手に取ってみると、そこには「最善は尽くしましたが、染みを完全に抜き取ることが出来なかったので料金は頂きません」という旨のメッセージが書き込まれていた。しかも手書きの小鹿のイラスト付きである。まさかスキンヘッドの彼が描いてくれたのだろうか。

最初は恐ろしくて二度と行きたくないと思ったが、やはり人を見かけで判断してはいけないのである。今度クリーニングを依頼する時も、また同じ店に足を運ぼうと思う。

 

追記1

いわゆる「ギャップ萌え」とは彼のような人にこそ相応しい言葉だと思う。今ではエプロン姿が逆に愛おしく思える。言葉遣いさえ変われば、彼は地元でさらなる人気を獲得するに違いない。少なくとも普通のクリーニング屋さんで「全部片付いたら」という表現は使われない。