【204日目】ダンディズムと歓送迎会の日
春は出会いと別れの季節である。それは私が務めている会社も同様で、4月の組織変更に伴って恐怖の人事異動が発令された。
私自身はそれほど影響を受けなかったのだが、密かに憧れていた男性の先輩が他拠点に異動されることになってしまい、内心ショックを受けている。彼は非常にダンディズムに溢れるお方で、理想の男性像を絵に描いたような存在だった。
顔立ちは言うまでもなくハンサムで、身長も180cmを優に超えている。声は低音で落ち着きに溢れており、柔和な人柄も相俟って社内でも愛されていた。身嗜みにも気を遣われているようで、宛らファッションモデルのようだった。非の打ち所の無いダンディーぶりと言えよう。
個人的にはもっと会話してみたかったのだが、ご存知の通り私は根暗なひきこもりである。他の部署のダンディーな先輩に話しかけるのは至難の業であり、足踏みをしている間に別れの日を迎えてしまった。
今日は歓送迎会が執り行われたのだが、私は相変わらず話しかけることが出来なかった。何かきっかけが掴めれば良いのだが、先輩は常に多くの人に囲まれていて、なかなか好機が訪れない。
このままろくな会話も出来ない別れてしまうのかと落胆していたが、そこに転機が訪れる。景品を賭けたビンゴ大会である。ここで真っ先にビンゴすることが出来れば、会場の注目を集められるに違いない。そうなると当然先輩の注意も引けるわけで、私は全身全霊を持ってビンゴに臨むことにした。
その結果、私は奇跡的にビンゴを達成して周囲から喝采を浴びるなどということはもちろん起きず、あっという間に景品を取られて終わった。世の中そんなに甘くないのである。
後に知ったことだが、その景品には憧れの先輩と一緒に写真を撮る権利や、対面で褒めて貰える権利が含まれていたらしい。私は自分の運の無さを呪った。やはり自分から行動を起こせない人間に好機は訪れないのである。
ちなみに先輩は東海地方に異動になるそうなので、今年の夏はレゴランドの観光を口実に東海地方を訪れようと思う。ストーキングとかそういうのでは無いです。あくまで偶然を装っているだけです。
※追記1
漫画家の萩尾望都先生曰く、「出会いは神の御業、別れは人の仕業」とのこと。至言である。
※追記2
ビンゴの景品で最も注目を集めたのは、「偉い人に何でもお願い出来る権利」だった。マンションか車か悩みどころである。