【190日目】落し物とホールケーキの日

今宵は新卒入社の若者を交えた懇親会に参加した。当初は会社から直接居酒屋に向かう予定だったが、予約の時間まで多少の余裕があったので、近くの公園で花見を楽しむことにする。

室長を先頭に目的地まで歩いたのだが、この公園は広大な面積を誇っているため、なかなか桜まで辿り着けなかった。あまり遠出すると予約の時間に間に合わなくなる恐れがあるので、仕方なく探索を諦めて公園で酒を呷ることにする。桜のないお花見は生涯で初めての経験である。

思えば昨年のお花見も場所取りに失敗して苦労した記憶があるので、来年以降はお花見が上手な方に企画をお願いしようと思う。

しかし部署全体で飲み会を開くのは久々だったので、桜は無くとも会話に花が咲いた。普段は仕事に関する話題がほとんどだが、今日のように交流を深める時間も大切である。

居酒屋に移動してからも楽しい時間は続き、私は程よく酔っ払った。デザートのケーキを楽しみに待っていたところ、ポケットの中のスマートフォンが鳴動する。近所に住んでいる友人からの連絡だった。

どうやら財布と鍵とパスケースをまとめて落としてしまったようで、路頭に迷っているらしい。なかなかの緊急事態である。

私はケーキを一口だけ食べたい衝動に駆られたが、友人の心境を察するとどうにも居た堪れないので、血の涙を流しながらその場を後にした。

現在は友人を迎えに向かっている真っ最中だが、今もケーキのことが頭を離れない。友人の財布が無事に見つかった暁には、特大のホールケーキを奢ってもらおうと思う。

※追記1

友人は財布と鍵とパスケースを紛失しながらも、読みかけの文庫本は手放さなかったらしい。もはやビブリオマニア（猟書家）の領域である。