ひきこもりろん

広告ライターからエンジニアに転職し、現在はYouTuberデビューを目論んでいる「ひきこもり志願者」が日々の妄想を書き散らかすブログ。

【137日目】事故物件と鍵紛失の日

鍵


昨夜、というより日付が今日に変わった直後の話なのだが、友人から突然連絡が入った。どうやら自宅の鍵を紛失してしまい、行く宛もなく彷徨っているらしい。

流石にこの時間から宿を探すのは気の毒なので、私は自宅のマンションに宿泊するよう勧める。単身者向けの賃貸マンションなので決して広い部屋ではないのだが、大人2人ぐらいなら問題ないだろう。

ひとまず終電が無くなると厄介なので、私は友人の現在地を早急に確認した。すると彼の返事には、私の最寄り駅が記載されていた。もはや私が宿泊させることを想定していたかのような行動である。

何だか手玉に取られているような展開に多少の苛立ちを感じたものの、最近は神経痛やらで眠れない日が続いたので、気晴らしの意味も込めて友人を待つことにした。

湯船を沸かし、温かいお茶を煎れ、アロマディフューザーの電源を入れる。ここまで徹底したおもてなしをすれば、彼も自ずと宿泊費を払いたくなるに違いなかった。

それから間もなくして、自宅のインターホンが鳴った。モニターには見知った友人の顔が映っていたが、この寒さで冷えたせいか、妙に血色の悪い表情だった。

私は彼を招き入れると、先ほど煎れたお茶を差し出し、互いの近況について話し合った。どうやら友人は最近引っ越したばかりのようで、私の家からだいぶ近くに住んでいるらしい。駅から近くて間取りも広く、おまけに築浅で家賃も安いパーフェクト物件だった。

しかし唯一の難点は、その物件が所謂「曰く付き」で、過去の入居者の身に何らかのトラブルが起きていたらしい。

私も友人も心霊現象には懐疑的なので、例え曰くがあろうとも実用性や利便性を重視する傾向にあった。ところが友人の顔色を見ると、妙に青ざめている気がしてならない。

私は不審に思ったものの、ひとまず喫緊の問題について考えることにした。彼が無くしてしまった鍵についてである。しかしその話題を口にしたところで、彼の表情は更に険しいものとなった。

詳しく聞いてみると、彼は引っ越して3カ月という短期間で、既に3回も鍵を紛失しているらしい。1度目は鞄に直接入れていたところ、どこかで落としてしまったそうだ。そこでキーケースに入れて保管するようにしたのだが、先月の頭にはキーケースごと紛失してしまったとのこと。

ここまでは不運の一言で片付けられそうだが、今回の要因を調べてみると、流石の私たちも背筋が凍る思いだった。鍵を入れていたはずのコートのポケットに、不自然な穴が開いていたからである。

もちろん、糸がほつれて破れてしまった可能性もゼロでは無い。だがそれにしても、ポケットに開いた穴はあまりにも大きく、1日や2日で出来るようなものでは無かったのだ。

これは何者かが意図を持って、彼を自宅から遠ざけようとしているのだろうか。あまりにも非科学的な発想に私は苦笑するが、当事者である友人にとっては笑い事では無い。

ひとまず私は彼を浴室に案内し、疲れを取るように勧めた。ベルガモットリーフの香りに包まれれば、不穏な考えや緊張も多少は緩和されることだろう。

それから1人で自室に戻ると、私はある疑問に思い至った。友人を招き入れた際に、後ろから続いて入ってきた色白の女性が居たのである。てっきり友人の恋人か何かかと思って一緒に招き入れていたが、彼女は一言も発することなく、部屋の片隅に座り込んでいた。

このまま無言の状況が続くのも気まずいので、私は色白の女性に話しかけてみたが、反応は皆無である。一応目線だけは私を見据えているが、その口から言葉が発せられることは無かった。

結局、風呂からあがった友人に「こちらの女性は貴君の恋人か?」と尋ねてみたが、彼は気持ち悪そうな表情を浮かべて「くだらない冗談はやめろ」と吐き捨てるだけだった。照れ隠しだろうか。

私は友人と女性にベッドを使うように勧めたが、女性の方は首を横に降るばかりで、部屋の片隅から動こうとしなかった。仕方なく、私は毛布を1枚彼女に渡し、友人と一緒にベッドに入る。

寝る間際、友人はずっと自宅についての文句を述べていた。あの家には絶対何かが憑いている、こんなに鍵を無くすのは異常だ、と。確かにコートのポケットについては何者かの意思めいた力を感じたが、それ以外は単なる過失と言えなくもない。

普段は冷静な友人だが、度重なる不運で気がたっているのかも知れない。私は話をそこそこに聞きながら、部屋の片隅に座する女性を見やる。毛布に包まれて眠る幼い寝顔は、ロザリア・ロンバルドを連想させるような、穏やかなものだった。

 

※追記1

私の部屋のベッドはセミダブルで、枕も2つ用意されている。一人暮らしを始めた当初、会社の先輩が遊びに来ることを想定して準備したのだが、彼が遊びに来たのは累計で2回程である。完全に家具選びを失敗した。

 

※追記2

昼は友人の希望で「蒙古タンメン中本」に行くことになった。しかし今日は18周年の記念だったようで、行列の長さが普段の比では無かった。何せ警備員さんが出てくるレベルである。小泉さん並のラーメン愛を持ち合わせているならまだしも、にわかラーメン好きの私たちは、あっさり松屋へ流れ込んだ。