ひきこもりろん

広告ライターからエンジニアに転職し、現在はYouTuberデビューを目論んでいる「ひきこもり志願者」が日々の妄想を書き散らかすブログ。

【105日目】ドトールと旅人の日

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今年も食戟に勤しんでいる私である。昨夜は牛肉の時雨煮を作ったりしたのだが、部屋の中に肉の匂いが充満してしまったので、不本意ながら家を出ることにした。もちろん、換気扇は最大出力に設定済みである。

特に目的地を決めていたわけでは無いのだが、手元にパソコンを持っていたのでWi-Fiに繋ぎたくなった。ちょうど駅前にはドトールがあったので、吸い込まれるように入店してしまう。現代人である私は、「電源完備」「Wi-Fi使えます」という言葉に弱い。

ブレンドを注文して席に着くと、早速パソコンを立ちあげる。しかしWi-Fiに繋ごうとしてと上手くいかず、仕方ないのでスマートフォンで接続方法を確認する。しかしこれは大きな過ちだった。

私が目を離した瞬間に、あろうことかWindowsのアップデートが始まったのである。これは非常に危険な状況だった。なにせ短時間の滞在予定だったので、ろくにバッテリーを充電していない。アップデートの途中で電源が切れてしまったら、また厄介なことになるのは目に見えている。

とは言え、一度始まってしまった以上はどうすることもできないので、私は無事にアップデートが終わることを祈ってパソコンを放置した。まったくWindowsとはスリリングな代物である。

すっかり手持ち無沙汰になった私は、店内の様子を観察することにした。本日は正月三が日の最終日だが、ドトールは家族連れやカップル客で賑わっていた。独り身にはなかなか辛い光景である。

そんな中、喫煙席の隅に腰掛けた1人の青年が目に入った。年齢は私と同じぐらいかと思われるが、帽子を深く被っているので正確に判別することは難しい。ただ、長髪と立派な髭を蓄えているため、どこか仙人を想像させる風貌をしていた。

足元にはボンサックが置かれており、靴は泥と砂に塗れている。どこかを旅してきたのだろうか。私は彼の一挙手一投足から目が離せなくなった。あわよくば旅の感想を取材して、今日のブログのネタにしようと思った。

しかし当然私にそんな勇気はなく、彼の行動をただ見守るだけだった。旅人は珈琲を飲む度に唇を窄め、髭に珈琲が付着しないよう心掛けている様子だった。なかなか苦労しているように見えたが、それでも髭を剃らないのは彼なりのポリシーなのだろう。

しばらくの間、旅人は古ぼけた手帳を眺めていた。他の客がスマートフォンを触っている中で、あえての手帳である。まさに旅人の鏡。きっとあの手帳には、彼が訪れた土地の思い出や記録が書き記されているに違いない。俄然興味をそそられてしまう。

その時、私の近くの席に座っていたカップルたちも旅人の存在に気づいたようで、彼を指さしながら「何か変な人がいる」と嘲笑するように話していた。私は人が人を嘲る姿を見るのが嫌いなので、席を移りたくなった。控えめに言って不愉快である。

私は旅人のことが心配になって再び視線を移したが、彼の耳には届いていなかったらしく、手帳に文字を書き連ねていた。

隣のカップルの陰口は一層エスカレートし、終いには彼の風貌を撮影しようとスマートフォンを構えようとした。これには流石の私も我慢できず、制止の声をかけるべきか逡巡した。

その時である。旅人は手帳を落としてしまい、それを拾おうとしたときに帽子も脱げてしまった。長髪と髭の合間から現れたのは、若き日のオダギリジョーを彷彿とさせる絶世の美男子だった。

カップルは想像もしていなかった彼の美貌に度肝を抜かれたようで、スマートフォンを構えていた手を下ろした。そしてどちらからともなく話題を変えたが、女性の方は頻繁に旅人へ視線を送っていた。

その表情は先程までのように侮蔑的なものではなく、まさに心が奪われてしまったような様子だった。何とも浅ましい手のひら返しぶりに、私はとても複雑な気分になった。

結局、旅人は間もなくして去っていったが、彼は一体何者で、この先どこへ向かうのだろうか。もしもまたドトールで出会うことがあったら、勇気を出して話しかけてみたい。

ちなみにWindowsのアップデートは58%前後でバッテリー切れになり、失敗に終わった。次回の起動が恐ろしくて堪らない。

 

※追記1

私はひきこもりなので、人から旅の話を聞くのが楽しみである。自分の足で訪れてみたい気持ちはもちろんあるが、何せ飛行機が恐ろしい。あんな鉄の塊が空を飛べるわけないのである。

 

※追記2

世の中のカフェすべてが電源&Wi-Fi完備になったら嬉しい。ただ長時間粘られると採算が取れなくなるのは確実なので、数時間おきにドリンクのオーダーを必須にしては如何でしょうか。