ひきこもりろん

広告ライターからエンジニアに転職し、現在はYouTuberデビューを目論んでいる「ひきこもり志願者」が日々の妄想を書き散らかすブログ。

【2日目】黄金騎士とステーキの日

肉


「たまには思いっきり贅沢するのも良いもんだぜ!」

人気料理漫画「クッキングパパ」の主人公・荒岩主任が、ステーキを調理する回で口にした言葉である。

昨日、「どうしてもステーキを食べたくて仕方がない症候群」を発症した私は、荒岩主任の言葉に従い、恋人を連れて外食することを決意した。 

向かった先は東武東上線大山駅。埼玉県民の聖地と呼ばれる池袋から、わずか3駅という好立地だ。駅前にはパチンコ屋が立ち並び、一見すると治安が悪そうな印象も受けるが、その先には賑やかな商店街がひろがっている。

この商店街の魅力は、なんといっても焼肉屋やステーキ屋が数多く存在することだろう。荒岩教の熱心な信者と化した私たちにとって、これほど恵まれた土地はないわけだ。

今回向かったのは、個人経営と思われるステーキハウスの「ステーキ田中」である。

前述の商店街から少し離れた住宅街の一角に、その店は位置していた。

時刻は16時45分。開店まであと15分ということもあり、カフェで時間を潰そうかとも思ったが、すぐにその考えを改めた。

これからステーキを食そうというものが、例え軽食とは言え、胃袋の容積を圧迫しようなどと、愚の骨頂である。

私たちは再び商店街を歩き回り、少しでもカロリーを消費することにした。うなぎに焼き鳥、ホルモンや餃子とあらゆる食の誘惑に襲われたが、私と彼女の意思は揺るがなかった。今日はただ、ステーキを腹一杯に食べるのだ。

そして待ちに待った17時。再び「ステーキ田中」を訪れた私たちだったが、店の扉の横には「準備中」の文字。個人経営らしき店だったので、多少時間がルーズなのも仕方ないだろう。むしろ焦らされていることに快感さえ覚えた。

しかし、いつになっても扉が開かれる気配がない。20時間ほど何も口にしていなかった私たちは流石に限界を感じ、扉の小窓から店内を覗こうとした。

その時である。店主と思しき男性が勢いよく扉を開け、私に向かって言い放った。

「すみません、今日は貸し切りなんです〜」

扉は再び閉ざされ、私と彼女は猛烈な悔しさに襲われた。そして同時に戸惑う。このステーキへの気持ちの昂りを、一体どうすれば良いのか、と。

商店街へ戻ると、ガロという喫茶店が目に入る。どこぞの黄金騎士のような名前の喫茶店で、コーヒーだけ飲んで帰ってしまおうか。そんな考えになるのも無理はないだろう。私の心に潜んでいた荒岩教祖も、すっかりと顎を潜めてしまった。

仕方なく、私たちは商店街の入口で見かけた「いきなり!ステーキ」へと向かった。近頃「孤独のグルメ」に心酔している私たちとしては、こういった華やかな外装のチェーン店に入ることに対して抵抗を感じてしまう。しかし、我々の空腹は深刻だった。

店員から注文のシステムを教わり、私はリブロースステーキ、彼女はサーロインステーキを注文した。率直に味の感想を述べると、それらはとても美味しかった。入店時に躊躇した自分が情けない。いつかこの店も「孤独のグルメ」で紹介される日が来ると、私たちは確信めいたものを感じた。(……が、恐らくそんな日は来ないだろう)

食事を終えた私たちは、コーヒーが無性に恋しくなって先ほどの喫茶店「ガロ」を目指した。駅前にパチンコ屋が並んでいるせいで、どうしても黄金騎士の姿ばかりが頭をよぎる。

なぜ「ガロ」という店名にしたのかと、恋人にも疑問を投げかけてみたが、

「パチンコ好きだったんじゃない?」と即答された。考えることは同じである。

「今日もお店の営業が終わったらパチンコ打ちに行くのかも!」

そんな談笑をしながら歩みを進めていた私たちだったが、気付けば商店街も終端、大通りへと出てしまった。

……店を見落としたのだろうか。私は何だか嫌な予感がしたが、改めて商店街へと引き返すことにした。

そして少しばかり歩いた頃、彼女が突然歩みを止めた。視線の先を探ると、シャッターの降りた建物。壁には「ガロ」の看板があった。

「パチンコ行ったな……」

彼女は小さく呟いた。店主の行き先は定かではないが、我々の計画はまたしても狂ってしまった。

その後、別の喫茶店を探し求めて大山の商店街を2〜3往復ほどして、道端で遭遇した野良猫と戯れた後に、私たちは帰路へとついた。 

そういうわけで、結局コーヒーは飲んでいない。次回こそは黄金騎士の煎れるコーヒーを飲もうと決意し、大山を後にしたのだった。

 

※追記1

野良猫はすさまじく愛らしかった。世の中では猫派が犬派を超えたという統計が出ているようだが、かく言う私も犬派から猫派に転向した1人である。

 

※追記2

久々に「クッキングパパ」を読んだら荒岩主任が課長になっていた。そして息子さんが立派に成長していた。感慨深いものがある。