【132日目】浮かれ気分と「やつら」の日
私は現在、都内某所でシステムエンジニアの仕事に就いている。もともと何かを作ることが好きだったので、この仕事も楽しくて仕方がないのだが、トラブルが起きた時の緊張感だけは未だに慣れることができない。
今日は上司が誕生日で半休を取得したため、午後からは1人で黙々と開発に取り組んでいた。意気揚々と会社を後にした上司とは裏腹に、私の心境は暗澹たるものだった。彼が楽しい気分で席を外すと、決まって何かしらのトラブルが起きるからである。
もちろん、それが一度だけなら単なる偶然として片付けられるのだが、二度目が起きると「一度ならず二度までも」という言葉が脳裏を過ぎる。そして「二度あることは三度ある」という諺が示すように、今日も漏れなくトラブルに巻き込まれることになった。
このように書くと一方的に上司を悪者にしているようだが、この話は私自身にも当てはまる。飲み会やデートのような楽しいイベントが控えている日は、かなりの高確率でトラブルが発生する。これはひきこもりのくせにリア充に憧れた罰なのだろうか。
私と上司が2人とも出掛ける日は特に注意が必要で、先日の新年会でも土壇場で呼び出される羽目になった。偶然と呼ぶにはあまりにも頻度が高いので、その日から私と上司は「やつら」の存在を疑い始めている。
「やつら」の正体は不明だが、悪趣味な観測者であり、私と上司の動向を常に見張っている。真面目に仕事をしている間は息を潜めているのだが、うっかり楽しい予定を入れようものなら、ありとあらゆる手段で私たちに戒めの罰を与えてくるのだ。
危機感を覚えた私は、かつてお世話になった探偵の師匠に相談した。どうせ「厨二病、乙!!」と一蹴されるだろうと諦めていたのだが、意外なことに彼は真剣な表情を浮かべる。もしや師匠も「やつら」の存在に気付いていたのだろうか。
静寂に包まれた喫茶店の一角で、私は彼が口を開くのを待った。コーヒーカップを置いた彼は、私の双眸を見据えながらこう言った。「辛いよな、統合失調症って……」
一瞬でもシリアスな展開に期待した私だったが、彼は小馬鹿にした表情で笑いをこらえていた。何たる侮辱。
……しかし今にして思うと、あの時の彼の態度はおかしかったような気もする。何せ彼は曲がりなりにも探偵である。我々のような一般人と違い、日夜「謎」と向かいあっている彼が、このようなぞんざいな態度を取るだろうか。
もしかしたら師匠は既に「やつら」の手にかかり、洗脳を施されているのかもしれない。それどころか、探偵としての技能を利用されて私の行動を監視し、「やつら」に密告している疑いすらある。
思えば私の誕生日も目前に控えており、「やつら」が行動を起こすには絶好のタイミングだった。このまま誕生日を迎えていれば、私がケーキの蝋燭に息を吹きかけるタイミングで社用携帯が鳴ったに違いない。危ないところだった。
そんなわけで、今年の誕生日は自宅でひっそりと息を潜めていようと思う。もはや誰からも祝われないことを願うばかりである。誕生日プレゼントにPlayStation4とか、本当にそんな気を遣わないで下さい。Nintendo Switchとか、まぁ欲しくないと言えば嘘になりますけど、「やつら」に見つかると危険なので。こっそり。あくまでこっそりお願いします。
※追記1
上司の誕生日プレゼントには精力増強剤を送った。まだまだ彼には必要ないと思うが、ここぞという時のために準備しておくことは大切である。
※追記2
ちなみに探偵の師匠などという人物は実在しない。私のブログは基本的に妄想の垂れ流しなので、第三者が登場した場合は概ね架空の人物だと思って頂きたい。