ひきこもりろん

広告ライターからエンジニアに転職し、現在はYouTuberデビューを目論んでいる「ひきこもり志願者」が日々の妄想を書き散らかすブログ。

【34日目】鉄道事故と黒魔術の日

今朝の8時15分頃、長野鉄道で三両編成の列車がトラックと衝突する事故が起きた。幸い乗客や乗員、トラックの運転手に怪我は無かったようだが、列車は大きく傾き、しばらく運転を見合わせる事態になった。

更に昼頃には、東京メトロ日比谷線で走行中の列車の窓ガラスが突然割れるという事故が起きた。こちらも怪我人はなかったとのことだが、もし通勤・通学の時間と重なれば大惨事になっていただろう。事故の原因は現在も調査中とのことなので、日比谷線をご利用になる方はくれぐれもご注意頂きたい。

 

日頃当たり前のように利用している電車だが、このような事故が起きるたびに各社の安全対策が気にかかってしまう。

私は学生時代に東武東上線を利用していたが、当時はこの電車も頻繁に止まっていた。主な原因は人身事故に因るものだが、踏み切りに車両が飛び込んで来たり、何も無いところで突然脱線したりと、なかなかスリリングな乗り物だったと記憶している。

事故の影響で足止めを食らうだけでも結構なストレスだが、学生時代の私は「やたらと事故車両に乗り合わせてしまう」という呪いに悩まされていた。

同級生に黒魔術をこよなく愛する友人が居たのだが、彼から借りたゲームのセーブデータをうっかり消してしまったせいかも知れない。大事な用事がある時に限って人身事故に遭遇し、私はライトノベルの主人公のように「やれやれ、またか……」と呟く日々が続いた。

一番恐ろしかったのは、やはり踏み切りに侵入した自動車と衝突した事故だろう。学会で発表するための論文を徹夜で仕上げ、朦朧とする頭で電車に揺られていると、突然轟音が響き渡った。

これまでの経験から「何かが衝突した」ということは瞬時に理解できたが、その激しさは人や動物を轢いた時の音とはまるで違った。金属同士が激しく擦れ合い、そのまま何かを引き摺って走るような鳴動に、乗客は一瞬でパニックに陥った。

時間にしてみればほんの数秒間の出来事だったと思うが、電車が緊急停止するまでの時間がとても長く感じられた。周囲を詳しく観察する余裕は無かったが、窓ガラス越しに大破した自動車が見えた時、ようやく状況を理解した。

間もなく電車が止まると、乗務員のアナウンスが車内に響く。轟音の原因が自動車との衝突事故と知り、やや安堵した表情を浮かべる乗客も居たが、未だ不安を拭い切れない方が大多数だったのだと思う。次のアナウンスが流れるまでの間、車内は喧騒に包まれた。

それから程なくして、最寄り駅の係員も事故現場に駆け付けてきた。彼らは電車に乗り込むと、手早く座席のシートを外し始める。何をするのかと疑問に思ったが、緊急時のシートは特別な役割を担っており、乗客が脱出するための滑り台になるのだ。

電車の扉が開くと、係員たちは一斉にシートを斜めにして地面に降ろした。私たちは誘導されるまま、事故現場から少し離れた場所へ脱出する。外の空気に触れたことで緊張の糸が切れたのか、その場で泣き崩れる人も居た。

私も命があったことに感謝したが、自分の置かれた状況を思い出すと血の気が引いた。論文。このまま電車が動かなければ、遅刻することは必至である。前日の帰り際に教授から「明日遅刻したら卒業させませんよ」と釘を刺されていたので、脳裏には留年の二文字が浮かぶ

私はしばし脂汗を浮かべて立ち尽くしたが、テレビ局のヘリコプターが近付く音で正気に返った。まずは教授に一報を入れなければならない。震える指で携帯電話の番号を入力すると、コール音が鳴る前に教授が出た。心の準備をさせるつもりは毛頭なさそうである。

「論文は間に合いそうですか?」

「あ、あの……電車が遅れていまして」

教授は無言になった。昨日の会話の流れを思えば当然である。受話器越しに遠慮のない殺気を感じた。このままでは危険だ。黒魔術の呪いで「怨念の力」を体感したばかりの私は、何とか教授を宥められないか思案したが、妙案が思い浮かぶ前に教授から口を開く。

「……あと、どのくらいで着きそうですか?」

それが分かるなら私が知りたい。私は適当に答えるべきか逡巡したが、正直に見当がつかないと白状した。生きた心地がしない。しかしこの事故の現状を知れば、教授もきっと分かってくれるはずである。

「教授、今テレビをご覧になれますか?」

「何ですか、こんな時に」

「もしかしたら、今の事故がニュースになっているかも知れません」

電話越しに慌ててテレビを着ける音が聴こえた。そして案の定、ニュース番組では私の遭遇した鉄道事故が大々的に報道されていた。きっと上空を飛び交うヘリコプターから中継されているのだろう。

これには教授も黙る他なく、「……気を付けて来るように」と一言だけ残して通話を終えた。事故発生から一時間ほど経って、私もようやく安堵の表情を浮かべるに至った。

 

長々と思い出話を語ってしまったが、鉄道事故の影響とは想像以上に広範囲である。鉄道会社にはもちろん安全対策を求めるが、日頃から自動車を運転される方もご注意頂きたい。サイドブレーキの掛け忘れやクリープ現象で踏み切りに侵入してしまう事故は、意外と身近なところで起こっている。

そして何よりも言いたいのが、私に黒魔術の呪いをかけた友人への謝罪の言葉である。あの時のことは謝るので、もう勘弁して下さい。

 

※追記1

私にかかった呪いは未だに効果が残っており、鉄道事故の話題を口にするとその日のうちに大体新しい事故が起こる。今日も帰りの電車で事故が起こり、原因は駅到着時に人がホーム下に転落したことだった(実話)。

 

※追記2

踏み切りを急いで渡ろうとする方も居るが、危ないので止めて欲しいのである。もしもその電車に私が乗っていたら大惨事になりかねない。