ひきこもりろん

広告ライターからエンジニアに転職し、現在はYouTuberデビューを目論んでいる「ひきこもり志願者」が日々の妄想を書き散らかすブログ。

【95日目】果物ナイフとサンタクロースの日

今日はクリスマスイブである。世の中のカップルたちはこれ見よがしに熱愛ぶりをアピールし、独り身の人間たちを嘲笑するかのようにデートに勤しむ。全くもって屈辱である。

子どもの頃のクリスマスは良かった。深夜になるとサンタクロースだかサンディ・クローズだかと名乗る怪人物から贈り物が届き、幼い私は大いに喜んだものである。

しかし歳を重ねるにつれて、私はサンタクロースの存在が恐ろしく思えてきた。なにせ私は彼の顔を見たことが無かったのだ。

両親や幼稚園の先生は、口癖のように「知らない人が来ても家のドアを開けてはいけません」と私たちに教え込んでいた。しかしサンタクロースに対しては妙に寛容で、どこの家庭も特に警戒することなく家に招き入れている節があった。

もしかしたら、大人たちはサンタクロースによって何らかの洗脳処置を施されているか、金品などで懐柔されているのかも知れない。そもそも見ず知らずの子どもたちにプレゼントを配る義理は無く、その膨大な資金源についても疑問が残る。

そこで私はサンタクロースを捕縛し、彼の目的について問い質すことを考えた。もちろん、10歳にも満たない子どもが成人男性を捕らえることの難しさは承知していた。徒手空拳で対峙するのは危険だと判断し、私は台所から果物ナイフを持ち出し、布団の中に隠しておいた。

そして夜。自分の部屋のベッドで眠ったふりをして、私はサンタクロースの来訪を待った。途中で眠くなってしまったら元も子もないので、大量の珈琲も摂取済みである。

静かな部屋の中で時計の秒針だけが音を刻む。私は今か今かと彼の来訪を待ち続け、廊下の先から足音が聴こえてこないかと神経を張り巡らせた。

そうして深夜の11時頃だろうか。静寂に包まれていた家の中に、僅かな物音が響き渡った。やがて部屋のドアが開き、私は「ついに来たか」と果物ナイフを握り締める。両親や先生たちを洗脳から解放するためなら、躊躇いなく刺し違える覚悟だった。我ながらイカれた園児である。

ところが、薄目を開けて闖入者の姿を確認した瞬間、私の決意は揺らぐことになった。奴は1人ではなく、仲間を引き連れていたのだ。これは迂闊だったと言う他ない。バスジャックの犯人が乗客の中に共犯者を潜ませるというのは有名な話だが、サンタクロースも単独犯ではなく、組織的な犯行だったのだ。

さらに驚いたのは、彼らの変装技術である。絵本の中では常に赤い衣に身を包んでいたサンタクロースだが、実際に対峙してみると、私の両親とまったく同じ顔に変装していた。

幼く未熟だった私には両親と同じ顔の人物に果物ナイフを突き付けることは到底叶わず、プレゼントをおいて去っていく姿を薄目で眺めることしか出来なかった。

やがて夜が明けると、私は両親に昨夜の出来事を事細かに伝え、果物ナイフを返却した。母親は何か恐ろしいものでも見るような表情で私を観察していたが、あれは何だったのだろう。

翌年以降のクリスマスでもサンタクロースの捕獲を試みたが、両親の告げ口があったせいか、私の前に直接現れることは無くなった。布団に入るといつの間にかプレゼントが置かれていたり、郵便ポストに投函されていたり、その手口は巧妙化するばかりである。

いつからかプレゼント自体も届かなくなったので、もしかしたら世界の誰かがサンタクロースの捕獲に成功したのかも知れない。プレゼントが貰えなくなるのは残念な気もするが、周りの大人たちのように洗脳されずに済んだので良かったと思う。

唯一の気掛かりはサンタクロースに飼育されていたトナカイのことだったが、風の噂によると現在は海賊団の一員として世界を旅しているそうな。元気そうで何よりである。

 

※追記1

サンタクロースからプレゼントが届かなくなったので、今年は自分で自分にクリスマスプレゼントを贈ることにした。表参道まで買い物に出掛けたのだが、街を見渡すとカップルばかりで憂鬱になった。もしも私の手元にマシンガンがあったら大変なことになっていたに違いない。

 

※追記2

真に受ける人が居ると大変なので念のため補足しておくと、私の実家には果物ナイフなど存在しない。仮に存在していても、私はその保管場所を知らない。故に今日の記事は全て妄想である。というか私の記事の過半数は妄想の産物なので、時間を惜しむ方は読まない方が得策である。