ひきこもりろん

広告ライターからエンジニアに転職し、現在はYouTuberデビューを目論んでいる「ひきこもり志願者」が日々の妄想を書き散らかすブログ。

【80日目】古い記憶と未来青年の日

今日は夕方頃から実家に帰ることにした。以前にもお伝えしたが、私の実家は現在の住まいから1時間とかからない距離にあるので、小腹が空いた時などにふらっと帰ることがある。なんだかんだで母の作る料理は美味いのだ。

しかし暦は師走である。私の両親も高齢ながら未だに仕事を続けているので、流石にこの時期は忙しそうな様子だった。もしも早い時間に帰ると邪魔にもなりかねないので、駅から少し遠回りして帰ることに決めた。

前回の訪問からおよそ1カ月足らずしか経っていないはずだが、そんな短い期間でも街の様子が大きく変わった印象を受ける。秋から冬へ季節が変わったせいかも知れないが、画一的な住宅街が夕日に照らされ、酷く無機質な空間に感じられた。

幼少期の記憶とはかけ離れた街の様子に少しだけ寂しさを感じたのか、私は気付くと母校の前に立っていた。駅から私の実家までは歩いて15分ほどの距離だが、この小学校はちょうど中間に位置している。

土曜日ということもあり、学校には人の気配が無かった。子どもの頃は夕暮れ時の学校に不気味さを感じて仕方がなかったが、今となってはノスタルジックな気分に陥るばかりでる。

学校の敷地を周回するようにして、近所の様子を見ながら歩いてみる。文房具屋や駄菓子屋はあの頃から変わっていない。特に駄菓子屋の店主である老婆は、あの頃と変わらず元気な老婆のままだった。ようやく自分の地元に帰ってきたという実感が得られる。

そろそろ実家に帰ろうかと思ったところで、道路脇に2人の少年が座り込んでいることに気付いた。どうやら、側溝に自宅の鍵を落としてしまったらしい。何とか拾い上げようと格闘していたので、少しだけお節介をすることにした。実は私も幼少の頃、まったく同じ過ちを犯したことがあったのだ。

側溝には鋳鉄製の格子蓋がはめられており、少年たちはその隙間に木の枝を差し込んでいた。どうやら箸の要領で持ち上げるつもりらしい。なかなかに優れたアイデアである。

私はちょうどソーイングセットを持っていたので、中から糸を取り出して先端に曲げたクリップを取り付けた。目的の鍵にはリング状のキーホルダーが付属していたので、その輪にクリップの針金を引っ掛けようとしたのだ。要するに釣りである。

結果、その作戦は見事に成功した。少年たちは安堵した表情を浮かべ、何度もお礼を口にしている。実はこの釣りの手法は、私がかつて側溝に鍵を落とした際に使ったものだった。

両親が共働きだった私にとって、自宅の鍵は決して無くしてはならない貴重品だった。ところが、ある日ちょっとしたミスで側溝に落としてしまい、そのまま取れなくなってしまった。

鍵がなければ家に入れない。遊ぶ約束をしていた友達と途方に暮れていたところ、たまたま通りかかったお兄さんが上記の釣りの方法で回収してくれたのである。

……そう言えば、今日の私はあの時のお兄さんと似たような格好をしている。赤いセーターにグレーのコート、黒のパンツにリュックサック。あのお兄さんのことは長い間記憶から消え去っていたのに、不思議な偶然である。

さらに、少年が落とした鍵には小さなネームプレートが付属していた。そこに刻まれていた氏名は、私の本名と完全に一致しているのだった。

 

※追記1

実家に帰ると、母の知り合いの女性と、その息子さん(6歳)が遊びに来ていた。今日はつくづく少年と縁がある日だ。そう言えば、先日の神社で出会った少年は元気にしているだろうか。

 

※追記2

ちなみにソーイングセットは持ち歩いているが、裁縫は苦手である。ボタンが取れそうな時にいつでも誰かを頼れるように持ち歩いているだけである。