ひきこもりろん

広告ライターからエンジニアに転職し、現在はYouTuberデビューを目論んでいる「ひきこもり志願者」が日々の妄想を書き散らかすブログ。

【48日目】職務質問と映画撮影の日

トランプ大統領が来日した影響なのか、ここ最近は至るところで検問を見掛ける。私はかれこれ2年近く自動車を運転していないのだが、大勢の警察官を見かけると未だに緊張してしまう。

もちろん、生まれてこの方悪事を働いたことは無い。しかし彼らは強大な権力をお持ちである。いくら身に覚えが無くても、自分の知らぬ間に犯罪の片棒を担されている可能性もゼロでは無いので、自ずと警戒心が高まるというものだ。

それに加えて、私は何故かやたらと職務質問を受ける。今でこそ頻度が減ったものの、学生時代は街頭の監視カメラで見張られているのでは無いかと疑念を抱くほど、警察官に呼び止められる日々が続いた。

確かにあの頃の私は(ろくに楽器も弾けないのに)バンドマンのような攻めた格好をしていたので、不審に思われても仕方が無かった。

しかしどんなに派手な服を着飾ろうとも、当時の愛車は年代物のママチャリである。夜道では必ずライトをつける好青年に、あそこまで執拗な尋問をする必要があったのだろうか。

一番酷かったのは、職務質問を受けている最中に大雨が降った時である。その日私は神保町で稀覯本を入手し、意気揚々と愛車のペダルを漕いでいた。

その時、突如脇道から2人の警察官が現れ、いつもの職務質問が始まったのだ。私は半ば諦めに近い気持ちで受け答えをしていたが、ぽつりと水滴が降ってきた瞬間に事情が変わった。なにせ手元にはアルバイトの月給の6分の1を注ぎ込んだ、大変高価な稀覯本を抱えているのだ。

雨脚は瞬く間に強くなり、私の心境はまるで穏やかでは無かった。もちろん仕事熱心な彼らを咎めるつもりは毛頭無い。この国の治安が保たれているのも、警察の存在があってこそである。しかしせめて場所だけでも変えて欲しかった。私の本は見事に濡れて皺だらけになった。

幸い後日改訂版が発売されたので買い直すことにしたが、もしこれで二度と手に入らなかったら、私の犯罪係数は優に300を超えていただろう。サイコパスの世界なら確実に執行対象である。

 

その日を境に、私は少しずつ落ち着いた服装を心掛けるようになったわけだが、最後の最後に試練が訪れる。映画撮影の仕事である。

当時の私は掛け持ちで色々なアルバイトをこなしており、その1つがエキストラの仕事だった。数日前までは久しぶりの映画出演に張り切っていたのだが、その時の役どころがよりにもよって『ヒートアイランド』のヤンキー役。撮影前から嫌な予感がした。

もちろんエキストラなので撮影時間は短いのだが、ロケ地は渋谷ハチ公前である。大勢の人が行き交う駅前にヤンキーたちが集まれば、警察に睨まれないわけが無い。

下手な動きを取ればすかさず職務質問を受けそうな緊迫した空気の中、撮影は始まった。AAAの浦田直也さん演じる「タケシ」が命令を告げたら、私たちは大声で返事をして走り出す。たったそれだけの簡単の仕事だ。

しかし私たちエキストラが走り出すと、何故か後ろに控えていた警察官たちも一斉に走り出した。もしかすると撮影のリアリティを出すための演出だったのかも知れないが、それにしては走り方が全力過ぎる。何もやましいことは無いのだが、追われると逃げたくなってしまう人間の心理を垣間見た。

その一件以来、私の警察官への恐怖心は極限まで高まり、同時にその有能さに敬意を表するまでに至った。

ここのところ何かと不穏な事件が増えているが、私は日本警察なら必ず解決できると信じている。ニュースでは警察の不祥事が取り上げられることも多いが、彼らの力無くして日本の平和は有り得ないのである。私のような善良な市民が犯罪に手を染めることは無いので、どうか他の職務に集中して頂ければと思う。

 

 ※追記1

ヒートアイランド』は垣根涼介先生の人気小説シリーズである。原作も読破済みだったので撮影を心から楽しみにしていたが、恐ろしい目に遭った。

 

※追記2

そもそも私は常に周囲の顔色を伺って媚びへつらうような雑魚キャラである。ラスコーリニコフのように哲学的な危険思考を持ち合わせている訳でも無いので、どうか道端の雑草のように無視して下さい、警察の皆様。