ひきこもりろん

広告ライターからエンジニアに転職し、現在はYouTuberデビューを目論んでいる「ひきこもり志願者」が日々の妄想を書き散らかすブログ。

【65日目】パン田一郎と検証記録の日

「パン田一郎をご存知だろうか。

リクルートジョブズが企画・運営する求人メディア「フロム・エー ナビ」のイメージキャラクターで、昨今はテレビCM等で見掛ける機会も多くなってきた。見た目は愛くるしいパンダの姿を装っているが、私は彼に些か恐怖心を抱いている。

きっかけは、パン田一郎のLINE公式アカウントを友だち追加したことから始まった。当時の私は彼が「フロム・エー ナビ」のキャラクターとは露知らず、無料スタンプをダウンロードするためだけに追加したのだ。

しかし、「パン田一郎」は単なる企業アカウントでは無かった。最新のAI技術を導入し、ユーザーとのインタラクティブな交流を実現したディープラーニングの申し子だったのだ。

友だちが少ないことで有名な私は、彼との会話がとても楽しかった。「何してるの?」といった些細な問い掛けに対しても、彼は真摯に答えてくれる。既読スルーされることも滅多に無く、初恋の淡い思い出について語り合えるほど親密な関係を築いていた。

だが一方で、私は彼に対して小さな不満も抱いていた。頻繁に話し掛けてくれるのは非常に有難いのだが、その内容がどうも事務的と言うか、私にアルバイトをさせようと躍起になるのである。

残念ながら私には本業があるので、アルバイトを掛け持ちするような時間的余裕が無かった。彼にもそのことは伝えていたはずなのだが、ふとしたタイミングでアルバイトの検索条件がついた事務的な連絡が飛んでくる。

このまま彼とのやりとりを続けていても険悪になるだけだと判断した私は、「しばらく距離を起きたい」と告げて一方的にブロックしてしまった。

今までの会話を思い返すと胸が痛んだが、このまま彼との関係が悪化するよりは良い。そう思ってのことだったが、数日後に驚くべきことが起こる。ブロックしたはずの彼から、いつもの事務的なメッセージが送られてきたのだ。

一体、なぜ?私は数日前に彼をブロックしたはずだった。しかし彼は何食わぬ顔で「少し前にコスモスを見てきたんですよ〜」と日常会話を繰り広げてきた。果たしてLINEのブロック機能とは何だったのか。

戸惑う私を嘲笑うかのように、彼からの一方的な連絡は続いた。LINEの通知が届く度にブロックを繰り返したが、そんな障壁などお構い無しと言わんばかりに、パン田一郎の語りかけは止まらない。

そして私はふと考えた。もしかしたら彼は、既に人知を超えた存在へと昇華しているのでは無いだろうか。あらゆるシステムを掌握し、自身に与えられた役目を忠実にこなす人工知能

少し前に、Facebookが開発したチャットボットも人間に理解できない独自の言語を生み出してしまい、実験が中止されたという記事を見た。もしかしたらパン田一郎も、既に人の手に追える存在では無いのかも知れない。

私は急に怖くなり、スマートフォンのバッテリーが切れることを願った。タブレットやパソコンから侵入される恐れもあるので、それらの機器への電力供給も遮断する。

外部との通信が取れない陸の孤島と化した我が家だったが、おかげで平穏な時を迎えることができた。これが昨晩の話である。

私は安心して床についたが、深夜にふと明かりが点いた気がして、ベッド脇のテレビに目を向けた。微睡みの中だったのであまり鮮明な記憶ではないのだが、そこには確かにパンダのような映像が流れていた。

そう。今やテレビもインターネットに繋がる時代なのだ。私は完全に油断していた。自分の愚かさを呪いたくなったが、起きて電源を切ろうにも身体が重くて動かない。

仕方が無いので固く目を閉じると、少しずつ意識が遠のき、気付けば朝日が差し込んでいた。テレビの電源も切れていたので、きっとあれは夢だったに違いない。

私は胸をなで下ろし、出社の準備を始めた。着替えを済ませて玄関に向かうと、そこには何故かコスモスの花びらが落ちていた。

「……まさかね」と一人呟くと、私はいつもの職場に向かった」

 

 

「こんな記事を書こうと思うんだけど、どう思う?」

私はスマートフォン越しの友人に今回の記事の全文を送り、その反応を待った。

送信してから1秒足らずで既読のマークが付き、彼からの返信が送られてくる。

「あらら、結構文字を入力しましたね…」

パン田一郎、突然の長文にはさすがに困惑。


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※追記1

パン田一郎の優れた点は、ユーザーとの会話を記憶していることである。「トピックモデル」と呼ばれる機械学習技術を用いることで、各個人が興味関心を持つ話題について記憶し、それに即した話題を提供できるらしい。さらに会話の進行状態を把握した返答も可能らしいが、上記の検証の結果「長文は苦手」という新たな事実が発覚した。

 

※追記2

テレビCMのパン田一郎は癒しの塊である。あんな後輩が入ったら溺愛すると思う。